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2011年、クリスマス話です!

前回アップした「星空に捧ぐ」と、タイトルが星と星でかぶってしまっていることに、アップ直前になって気づいたのですが(汗)これ以上いいタイトルが浮かばなかったのでこれで行きます(笑)



一応イザ主カテゴリに入れてはいますが……今年のアンジュたちは、脇役です(笑)























--------------星たちのみちゆき













街中が賑わい、笑い声に満ちあふれるクリスマスイブの午後。
華やかに着飾ったセントシュタインを、サンディはふわりふわりと一人漂っていた。
今日の彼女は冬の装いだ。毛皮のフードを、コート代わりにして着ている。いつもの服だとこの季節を過ごすのは厳しいだろうし、少しでも寒さをしのぐことができれば、と仲間たちがくれたものだ。
(……あ~あ、ヒマだなぁ……)
しかしその仲間たちも、今日は朝から忙しく動き回っている。リッカの宿屋の、クリスマスパーティーのためだ。
クロードは会場のセッティング、サティは飾り付け、メルは料理の手伝い――彼らはそれぞれの役割を、懸命にこなしていた。サンディも、最初はそんな彼らの側についていた。
けれど、やはりこの体では何も手伝えそうにない。準備に集中しているところに話しかけるのも、何だか気が引けた。
そこでサンディは、一人宿屋を出て街中へ向かった。外へ出れば、少しは退屈がしのげるかもしれないと思ったのだ。



セントシュタインの中心部、中央公園は、想像以上の賑わいだった。サンディは行き交う人波をすり抜けながら、公園の中を飛んでいった。
クリスマス前後のほんの短い期間だけではあるが、この時期には、小さな露店が公園内にいくつも並んでいる。そこではクリスマスリースやサンタの人形、星をモチーフにしたアクセサリーなど、クリスマスにちなんだ品物ばかりが売られているのだ。
聞けば、昨年アンジュがイザヤールからもらったプレゼントも、この露店で買ったものなのだという。
(そういえば、アンジュとイザヤールさん、今頃どうしてるかな)
サンディは胸の内でつぶやき、小さく笑みを浮かべた。
今日、アンジュとイザヤールは、朝から二人でクリスマスデートに出かけている。――といっても、お互い仲間たちに何度も背中を押された結果なのだが。
宿屋に残った仲間たちがパーティーの準備に真剣に取り組んでいたのも、アンジュたちが宿屋の心配をすることなく、安心して出かけられるように、という理由だったのだ。
(うまくやってるといいケド……ん?)
二人のことを思いながら飛び続けていたその時、見慣れた姿が視界に入ったような気がして、サンディはあたりを見回した。
(……あれは……噂をすれば、ってやつネ。口に出したわけじゃないケド)
その姿は、すぐに見つかった。
サンディが今まさに心に浮かべていた二人が、そこにいた。



アンジュは白いダッフルコート、イザヤールは黒いトレンチコートを着ていた。
彼らは雑貨を扱う露店の前で、品物を見ていた。店先には、ぬいぐるみやガラス細工など、可愛らしい品々が並んでいる。アンジュはそれらに目を奪われているようだった。
そんなアンジュに、イザヤールは何やら話しかけていた。何を言っているのかは遠くて聞き取れないが、その表情は穏やかだった。
アンジュはイザヤールの言葉に、一瞬とても驚いた顔を見せた後、照れくさそうに笑って軽く一礼した。
やがて、イザヤールが店員に声をかけた。そのまま少し言葉を交わしたあと、店員はアンジュに何かを手渡した。
よく見ると、それらは二体のクマのぬいぐるみだった。一つはサンタの服と帽子を身につけた、男の子のクマ。もう一つは、サンタガールの服と赤いリボンを身につけた、女の子のクマ。アンジュはぬいぐるみを受け取り、満面の笑みを浮かべていた。
その隣でイザヤールは支払いを済ませ、アンジュに向き直った。アンジュはもう一度小さく頭を下げると、二体のぬいぐるみのうち、男の子のクマをイザヤールに手渡した。
受け取ったぬいぐるみを右手に抱え、イザヤールは左手をアンジュに差し出す。アンジュは、はにかみながらもその手を取った。ほんのりと、頬を染めて。
しっかりと手を繋ぎ、微笑みを交わしながら、二人は公園の奥へと歩いて行った。





サンディはしばしの間、その場から動けずにいた。
(……アンジュのあんな顔、初めて見た気がする……)
ぬいぐるみをプレゼントされた時の嬉しそうな顔も、イザヤールと手を繋いだ時の微笑みも。サンディが、今まで一度も見たことのない表情だった。
あの顔は、イザヤールと二人きりのとき、イザヤールだけが見ることのできる顔なのだろう。
サンディが気づかなかっただけで、二人の心の距離は、今までよりも近いものになっていたようだ。
(……そっか。変わっていくんだ)
長年連れ添った夫婦のような、落ち着いた関係を保ち続けるのかとも思っていたが、そうではなかった。ゆっくりではあるが確実に、二人の関係は進展している。
(アタシの知らないあの子の顔が、こうやって少しずつ増えていくのかな……)
アンジュが幸せそうにしているのは、素直に嬉しいと思う。
けれど同時に、サンディの胸にはほんの少しの寂しさがよぎっていた。
――今までずっと一緒にいたアンジュが、自分から離れていってしまったような、そんな気がして。






「あーっ、いた!!!」






聞き慣れた声が背後で響いたのは、その時だった。
思わずサンディが振り向くと、そこには、灰色のポンチョを着たサティ、茶色のモッズコートを着たクロード、そして、コート代わりに幻魔の法衣を身に纏ったメル――リッカの宿屋でパーティーの準備をしていたはずの、仲間たちがいた。彼らはサンディの姿を見つけると、一斉にすぐそばまで駆け寄ってきた。
「サラ……クロード、メルも……なんでここに?」
「なんで、じゃないわよ! あんたを捜しに来たに決まってるじゃない!」
黙っていなくなっちゃって! と、サティは少々むくれた顔を見せた。
「心配したんだぞ、急に姿が見えなくなったから」
そう言いながら、クロードはほっとしたように息を吐いていた。
「け、けど、パーティーの準備は? 出てきてよかったの?」
「それなら大丈夫だ。今は順番に休憩を取りながら進めてる。で、今は俺たちの休憩時間なんだ」
クロードが答えたところで、それまで沈黙を保っていたメルが一歩前に出た。
「休憩に入った途端、サティもクロードもお前の姿を探し始めて、結果的にこうして外に出てくることになったんだ。……お前がいないと、二人とも、どうにも調子が狂うらしくてな」
「それはあんただって同じでしょー!? もう、私たちが巻き込んだみたいに言わないでよね!」
メルの言葉を受け、サティは両手を腰に当てて唇を尖らせる。いつもと変わらない二人の様子にふっと笑みを浮かべ、クロードはサンディに向き直った。
「そういうわけだ、サンディ。一緒に宿に戻ろう。今年はパーティーの料理、お前の分もちゃんと用意してるんだ。残したら勿体ないだろ」
「……アタシ、見えないんだよ?」
「そこはうまく隠すさ」
クロードがそう言うと、サティは先程のふくれっ面から表情を一転させ、いたずらな笑顔を見せた。
「そうそう! みんなで美味しいごちそういーっぱい食べて、帰ってきたアンジュたちを悔しがらせてやりましょ!」
にっと笑って身を乗り出すサティに視線を向け、クロードはあきれ顔で軽くため息をついた。
「おいおい、そこはアンジュたちの分も取っておいてやれよ……」
「えー、駄目? アンジュたちはアンジュたちで美味しいもの食べるんだろうし、それぐらいならいいと思うんだけどなぁ」
「……駄目なのか?」
「えっ!?」
思いも寄らないメルの一言は、クロードの表情を一瞬で驚愕に変えた。サティはなおも不服そうな顔を見せ、メルは彼女の言葉に顔色一つ変えず頷き、クロードは二人に向かって力一杯首を振っている。
そんな彼らの様子を見ているうち――サンディの口元にも、自然とほころびが生まれた。
「……ふふ、はははっ、あはははははっ!!!」
気づいたときには、笑い声が口を突いて出ていた。突然のことに仲間たちは思わず振り向き、目を丸くする。
サンディは息を整えると、そんな仲間たちの顔を見渡し、一度大きく頷いて太陽のような笑顔を咲かせた。
「……仕方ないわね。そこまで言うなら、戻ったげる!」






アンジュの隣にいるのは、いつでも自分だと思っていた。
だがイザヤールが戻ってきたことで、アンジュの隣はイザヤールの居場所になった。
だから、今までのようにアンジュをそばで見守ることは、もうできなくなるのかもしれない。
けれどそれは、自分の居場所がなくなることにはならない。
自分には、自分をありのまま受け入れてくれる、頼もしい仲間たちがいる。そして彼らも自分と同じように、アンジュの幸せを願っている。
これからは彼らとともに、彼女の帰りを待てばいいのだ。
それに、例え自分の居場所が変わっていったとしても、アンジュが自分の大切な友達であることに、変わりはない。



変わっていくものは必ずある。けれど、決して変わらないものもまた、確かにここにある。
そう思うと、緩む頬を抑えることができなかった。






「よーし! そうと決まれば早速ゴーよ!」
「ちょ、ちょっとサンディ! 待ってよ、待ちなさいってばー!」






仲間たちを追い越しながら、ひらりと宙に舞う。心とともに、なんだか体まで軽くなったような気がした。
うきうきと心を弾ませ、サンディは、寒空のもとを再び飛び始めた。






アンジュが帰ってきたら、まずどんな言葉をかけよう――そんな事を、思いながら。








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二人の仲がちょっと進展する話は、実は夏あたりに書くつもりだったんです。
ですが書けないうちに夏が終わって秋が終わって冬が来てしまったため(汗)過程を省いて、ランクアップした二人をいきなり書くわけにもいかず。
今年のクリスマスはどうしよう……と考えた結果、彼女視点のお話になりました。
第三者視点のイザ主は書いたことがなかったので、なかなか新鮮で楽しかったです。




肝心のランクアップ話……来年こそやるやる詐欺にならないようにしないと……(汗)





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