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他のお宅の主人公を書かせていただくのは初めてなのでドキドキです。
ユリエルちゃんの特徴、ちゃんと掴めているでしょうか(汗)
--------------出会いはプライスレス
それはカラコタ橋、通称「ひみつのお店」での出来事。
アンジュは唸っていた。
カウンターの前、微動だにせず顎に手を当てたまま立ちつくしている。――もう、三十分ほど。
店員の視線が気にならなくはないが、元々客の少ない店だ。迷惑になるということはおそらくないだろう。
彼女の視線は、ある一点にのみ注がれていた。
右手の財布には十分な所持金が入っている。だから買えないわけではない。
しかしそれでも、購入する勇気がない。例え購入できたとしても、身につける勇気がない。
彼女の視線の先にあるのは――メイド服であった。
アンジュはパラディンという職業柄、鎧を身につけることが多い。最も重視するのは守備力。外見は二の次であった。可愛い服にも憧れはしたが、どんな服が自分に似合うのかわからず、結局手を出さずにいた。そもそも彼女自身、ファッションに敏感な方ではないのである。
そんな彼女にとって、メイド服との出会いは衝撃的だった。それは一目惚れといってもよかった。
最初に見たときすぐさま購入しようとしたが、その時は所持金が足りず、買うことができなかった。そのためお金を貯めて、本日改めて店を訪れたのだが、カウンターの前に立ったとき――ふと思った。自分はあの服を身につけて、歩くことができるだろうかと。
(やっぱりやめた方がいいかなあ似合わないかもしれないし可愛いけど着るのはちょっと恥ずかしいしそんなに守備力もないしあああでも欲しい欲しい欲しい………)
……そしてこのようにアンジュがぐるぐると逡巡し始め――今に至る。
「こんにちはっ!」
その時、勢いよく店の扉が開かれた。
入ってきたのは、青色の髪をポニーテールにした一人の少女。アンジュと同年代、もしくは少し年上に見えた。
少女はカウンター――つまりアンジュの隣へ駆け寄り、溌剌とした声で女店主を呼んだ。
「お姉さん、メイド服一着下さい!」
女店主はあら、と一言呟くとカウンターに肘をついて、クスリと笑う。どうやら、この少女と女店主は顔なじみのようだ。
「また来たのね。もうこれで何着目?」
「いいじゃないですか、何着買っても。好きなんですから」
わかったわよ、と言って女店主は店の奥へ向かった。
一方アンジュは、隣の少女をじっと見つめていた。
「何着買っても」と先ほど彼女は言っていた。この言葉から察するに、彼女がメイド服を購入するのはこれが初めてではないのだろう。もっともそれは、彼女の言葉がなくてもわかることであったが。
「……可愛い……」
思わず呟きがこぼれた。
そう、この少女が今着ているものもまた――メイド服だったのである。
「あ、これ?」
今の言葉が聞こえてしまったのだろう、少女がアンジュの方を向いた。
「気に入ってるの、この服。もう換えを何着も持ってるんだ」
えへへ、と照れ笑いを浮かべながら少女は答える。
「あ、ご、ごめんなさい、じっと見たりして……」
アンジュは小さく頭を下げたが、少女は笑って首を振った。
「そんな、謝らないで! 私、可愛いって言ってもらえて結構嬉しかったんだよ?」
「ほ、ほんとに?」
「うん。ありがとう!」
面と向かってそんな風に言われると、こちらまで照れくさくなってしまう。アンジュは赤くなる頬を誤魔化すかのように、続く言葉を探した。
「やっぱり、すごく似合ってる。私だったらこんな可愛い服、着こなすなんてできないよ」
ちょっぴり本音が交じったその言葉に、少女は目を見開いてアンジュを見つめた。
「……ねえ」
「ん? 何?」
「もしかしてあなたも、これ、着てみたいの?」
「えっ!? いや、私はその……」
「はい、メイド服一着でいいわね?」
その時を見計らってか否か、女店主がメイド服を持ってカウンターに戻ってきた。
「あ、お姉さん、丁度いいところに! ちょっとそれ貸して下さい! 彼女に試着させたいんですっ!」
「試着?」
「彼女もメイド服、着てみたいらしくて」
少女は女店主からメイド服を受け取ると、それを持ってアンジュに近づく。
「ね、この際だから着てみなよ?」
「い、いや、いいよいいよ、絶対似合わないってそんなの私今だって鎧着てるんだし」
アンジュが掌を左右に振るも、少女の笑顔は揺らがない。
「だーいじょうぶだって。神秘の鎧なら、その上からでも着られると思うし」
「いやそういう問題じゃなくて」
「ほらほらっ!」
結局彼女の押しに負けて、アンジュはメイド服を身につけた。
このような、いかにも女の子らしい服を着ることが少なかったためか、やはり落ち着かない感じがする。
「ど、どうかな……?」
目の前の少女に問う。彼女はしばらく何も言わずにアンジュの姿を見つめていたが、やがてみるみるうちに瞳を輝かせ、アンジュの手を取ってぶんぶんと振った。
「すっごく可愛いっ!!」
「ほんとに!?」
「うんっ、バッチリ似合ってるよっ!!」
その言葉に、思わず頬が緩む。
しばし二人で笑顔を交わし合うと、アンジュは女店主の方に視線を向けた。
「あの、私もこれ、買います!」
二人そろって18000ゴールドを払い、同じメイド服を手にする。アンジュは鎧の上からこのまま着ているわけにもいかないと、試着したものを一旦脱いでいた。少女はもったいない、と呟いていたが。
「ありがとう、よかったらまた来てね。特にあなたはヘッドドレスも必要でしょ?」
アンジュに視線を向けると、女店主はクスリと笑った。
できることならヘッドドレスも買いたかったが、今回はそこまで持ち合わせがなかった。
「また来ます、お金もしっかり貯めて」
「楽しみにしてるわね」
アンジュは女店主に挨拶を済ませると、隣の少女に小さく礼をした。
「今日はありがとう。きっとあなたがいなかったら、買えなかったよ」
「えへへ、そんなに大したことはしてないけどね。でもあなたの力になれたなら、嬉しいな」
少女は満面の笑みを浮かべて答えた、かと思うと、思い出したように「あ」と呟いた。
「名前、言ってなかったよね? 私はユリエル。あなたは?」
言いながら、ユリエルは右手を差し出す。
アンジュはその手を取り、彼女の笑顔に応えるようにふわりと微笑んだ。
「私は、アンジュっていうの」
カラコタ橋、通称「ひみつのお店」。
今日ここで二人が手に入れたのは、服だけではなかったようだ。
それは決して価値のつかない、だからこそ大切なもの。形はないけれど、確かに二人は手にしていた。
そう。
――新たな絆が、芽生える瞬間を。
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ユリエルちゃんと交流させるにあたってどんな話にしようか、と考えたところ、真っ先に思い浮かんだのが「メイド服」でした(笑)メイド服が好きなユリエルちゃんと、着てみたいけどやっぱりちょっと恥ずかしいと思ってるアンジュ。そんな二人の会話を書くのはとっても楽しかったです。
メイド服は18000ゴールド、しかし二人の出会いはプライスレス。
……タイトルどうするか悩んだ結果、結局そのまんまになってしまいました(汗)
書かせていただき、ありがとうございました!