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なんとか完成しましたっ!!






ある意味今年の集大成ともいえる、イザ主クリスマス話です!

























--------------天使の祈り












セントシュタインの街は、朝から大賑わいだった。
商店街は赤と緑の二色に染まり、中央公園の木々には、きらびやかな星の飾りが取り付けられている。そして、どの場所も今日という日を楽しもうという人で溢れていた。
今日は12月24日、クリスマス・イヴ。
一年のうち、最も大きなイベントとも言える日だった。――特に、恋人同士にとっては。
街を歩けば、微笑みを交わしながら歩く男女の姿が普段よりも多く見られた。一年に一度しかない特別なこの日、愛する人との幸せな時間を過ごしたいと、誰もが願うのだろう。

 

――しかし、その日アンジュは。

 

「はいっ、リッカ! クッキー焼けたよ! 次シュトーレン作るから、ドライフルーツもらってもいい?」
「う、うん! そこの棚に入ってるから、好きなだけ使って!」

「……サティ、メル。どうしてこうなってるんだ?」
「……俺達に聞くな」
その日の午前のこと。
クロード、サティ、メルの三人は、酒場の丸テーブルを囲み、顔を見合わせてため息をついていた。
原因は言うまでもなく――今、厨房でお菓子作りに精を出しているアンジュである。

今日は、アンジュとイザヤールが恋人となって、初めて迎えるクリスマス。二人は当然、一緒に過ごす約束をしているのだろう、と思っていた。クロードも、サティも、メルも、もちろんリッカも。だからこそ、二人のクリスマスの予定については触れないことにしていた。暗黙の了解だった。
しかしアンジュは、「クリスマスは、宿屋の宿泊客と従業員みんなでパーティーを開く」というリッカの言葉を耳にし、「じゃあ私も、お菓子作り手伝う!」と名乗りを上げてしまったのである。
初めはリッカも丁重に断ろうとしたそうだが、「リッカが忙しいときに見てるだけなんてできないよ!」というアンジュの熱意に押され、結局受け入れてしまったということだ。
クロードは、ちらりとカウンターに目をやった。厨房とカウンターの間を行き来しているリッカは、アンジュの働きに感謝の言葉を述べながらも、苦笑を浮かべている。
「あいつ、本当にこのままお菓子作って、一緒にパーティーやって、それだけで今日を終えるつもり……なのか?」
「……そうでないと、信じたいけど」
クロードの問いに、サティが再びため息をついた時。階段から、誰かの足音が聞こえてきた。何気なく目を向けると、そこにいたのは馴染みの顔だった。
「イザヤールさん!」
階段を降りてきたイザヤールは、黒いコートを身に纏っていた。これから外に出るのだろう。
「どっか行くのか?」
「食材の買い出しにな。パーティーの料理に使うものが、少し足りないらしい」
彼の手には、買い物メモらしきものが握られていた。どうやら本当に、買い出しに行くだけのようだ。
「……アンジュが頑張っている時に、手伝わないわけにはいかないからな。では、行ってくる」
そう言って、畳んだメモをポケットにしまうと、イザヤールは足早に、彼らのテーブルを後にした。クロード達が声をかける間もなく、宿の扉は開かれ、そして閉まる。何のためらいもなく。
扉が閉まったその瞬間、クロードはひときわ深いため息と共にテーブルに突っ伏した。
「……駄目だ。あいつらクリスマスの過ごし方をまるで分かってねえ……!!」
「ごめん、クロード。……私がもっと早く気づくべきだったわ」
「ああ。俺も今、気づいた」
「うん?」
身体をテーブルに預けたまま、クロードは顔だけを上に向けて二人を見上げる。頬杖をついているサティ、腕組みをしているメル、二人とも苦渋の表情を浮かべていた。
「あの二人、地上で暮らすようになって、まだ日が浅いでしょ? だから、『クリスマスは恋人同士で過ごすもの』っていう世間の常識を知らないのよ」
「まだ子供だったこともあるかもしれないが……俺達も、地上に降りたばかりの頃は、クリスマスが恋人同士の大事なイベントだなんて知らなかったしな」
「……なるほどな。けど、このままってわけにもいかないだろ」
そもそもあの二人には、『今以上に関係を進展させたい』という欲があまりないのだ。
今の関係に満足しきってしまっているためか、お互い恋愛初心者であるにもかかわらず、彼らが醸し出す雰囲気は熟年夫婦のそれに近い。
二人一緒にいられるなら、他には何もいらない――というのも、それはそれで幸せなのかもしれない。しかし周りから見れば、もどかしくてたまらないのだ。
やっと想いが通じ合って恋人同士になったのだから、二人にはもっと、恋人としての、恋人らしい時間を過ごして欲しい。
そのためにも、今日の日を無駄にするわけにはいかない。今年のクリスマスは、一度しかないのだ。
「そうだ!」
その時、サティがポンと手を打った。その瞳は、先程とは打って変わってきらきらと輝いている。
彼女はニヤリと笑みを浮かべると、テーブルに身を乗り出してこう言った。
「ふふっ、いーいこと思いついちゃった。ね、二人とも耳貸して!」

 

 


そして夜が訪れ、宿屋では、宿泊客と従業員を交えたクリスマスパーティーが始まろうとしていた。
さすがに全員が席に着けるようなテーブルは用意できなかったため、数人ずつに別れていつもの丸テーブルを囲むことになったが、その上は、今日のために用意された豪勢な料理で埋め尽くされていた。
ローストチキンにスープ、ピザにグラタン。グラスには次々とシャンパンが注がれていく。
しかしそれ以上に目立っていたのは、アンジュの作ったお菓子だった。クッキーやシュトーレンの他、中央のテーブルには、二段重ねのデコレーションケーキがでんと構えている。これは後で人数分に切り分け、それぞれのテーブルに運ばれるということだ。
アンジュも仲間達と共に席に着き、始まりを今か今かと待ちかねている。やがて、従業員席にいたリッカが立ち上がった。
「みなさん、準備はいいですか? いきますよー! せーのっ!」
「メリークリスマース!!」
リッカの号令と共に、パーティーの開始を告げるクラッカーが鳴り響いた。

パーティーは、大いに盛り上がっていた。
アンジュからは、プレゼントとして手作りのクリスマスチョコレートが全員に配られ、メルは「……今日だけだからな」と言い、普段なかなか歌ってくれないゴスペルソングを披露してくれた。
あるいは飲み、あるいは食べ、あるいは旅の話に花を咲かせる。宿屋は、人々の笑い声で満ちあふれていた。

サティが立ち上がり、「ちゅうもーく!」と言いながらパンパンと手を叩いたのは、宴もたけなわ、という時だった。

「えー、ここで私たちから、アンジュとイザヤール様にクリスマスプレゼントを渡したいと思います!」
「え?」
思いがけないサティの発言に、アンジュとイザヤールは顔を見合わせ、頭に疑問符を浮かべる。状況が飲み込めない二人を、「ほら、立って立って」とサティが促した。
立ち上がった二人のもとに、いつの間にか席を立っていたクロードが歩み寄ってきた。その手には、二人がいつも着ているコートがある。
クロードは何も言わず、二人にコートを手渡した。そしてそれを合図とするかのように、サティはにんまりと笑みを浮かべ、声高々にこう宣言した。
「それでは、私たちから二人に……『恋人と二人っきりで過ごす時間』を、プレゼントしまーす!」
「え……ええっ!?」
アンジュが驚きの声を上げたのも束の間、部屋の中に、ひんやりとした空気が流れ込んできた。
振り返ると、やはりうっすらと笑みを浮かべたメルが、宿屋の扉を開けていた。サティはそこへ、二人の背中を押しやっていく。
「さ、行った行った!」
「え、ちょっ、待って!」
アンジュが止めるのも聞かず、サティはぐいぐいと二人の背中を押し続け、ついに二人は冷たい風の吹く外へと追いやられてしまった。
「あ、なんだったら明日の朝まで帰ってこなくてもいいわよー? そんじゃ、メリークリスマス!」
言い終わるか終わらないかのうちに、扉はバタンと閉められ、ガチャリと鍵のかかる音が聞こえた。
「……追い出されちゃいましたね」
閉ざされた扉を見つめ、半ば呆然としながら、アンジュがぽつりと呟いた。
「……ああ。だが」
イザヤールは隣のアンジュに視線を向けた。アンジュも彼に視線を合わせる。
「折角もらったプレゼントだ。使わないわけにはいかないだろうな」
その言葉と、彼の微笑みが意味するもの――それに気づいたアンジュは、大輪の笑顔を咲かせて、大きく頷いた。
「……はい!」

 

 


イザヤールは黒いコート、アンジュは白いコートをそれぞれ身に纏うと、二人揃って夜のセントシュタインを歩き出した。
空は澄み渡り、瞬く星々を鮮やかに映し出している。ホワイトクリスマスとはいかなかったが、今日の夜を演出するには十分だった。
もう、日付も変わろうとしている時刻だ。外にいた人々も家に戻ったのか、通りには人の姿がほとんど見えなくなっていた。商店街の明かりも、少しずつ消えようとしている。
だが、この場所だけは違っていた。
「……きれい……」
「見事だな。……本当に、綺麗だ」
二人がたどり着いたのは、街の中央公園。そこには大きなクリスマスツリーが設置されていた。
星の飾りに鈴にリボン、さまざまな装飾が施されたそれは、電飾によって彩られ、淡く光を放っているように見えた。
アンジュはうっとりとした顔で、ツリーに見入っている。そんな彼女を見て目を細めると、イザヤールは自身のコートのポケットに、手を伸ばした。
「アンジュ」
呼びかけられて振り向いたアンジュの目の前にイザヤールが差し出したのは、赤い包装紙に緑のリボンがかかった、手のひらほどの大きさの箱だった。
「……これを、お前に。私からのクリスマスプレゼントだ」
アンジュはしばらく差し出された箱をじっと見つめ、それからイザヤールの顔を見上げた。
「私に、ですか?」
「お前にだと言っただろう」
そう言われてもまだ、アンジュの瞳には驚きの色が残っていた。それもそのはず、イザヤールから個人的なプレゼントを受け取ることなど、彼女は予想していなかったのだ。
しかし徐々に、その頬は緩んでいった。嬉しさを抑えられない、というように。
「……開けてもいいですか?」
イザヤールは、黙って頷いた。
リボンをほどき、包装紙を開け、箱のふたを手に取る。そして、中のものを目にした瞬間、アンジュは思わず目を見張った。
「……あの、これって……!?」
「ああ」
そこには、小さな天使像が収められていた。
街に設置されているものをそのまま小さくしたかのように、そっくりに作られている。以前天使界に存在していたものだと言われたら、間違いなく信じてしまっていただろう。
「『クリスマスには、天使が舞い降りる』……地上の一部には、そんな伝承があるらしい。それが守護天使と同じ存在かどうかは、わからないがな」
手の中の像を見つめるアンジュに、イザヤールは続ける。
「昼間、買い出しに出かけたときにそれを見つけて、お前に贈りたいと思ったのだ。もうこの世界に守護天使は存在しないが……私は、お前だけを守る、お前だけの守護天使でありたい。……これは、その想いの証だ」
「イザヤールさま……」
「……受け取ってくれるか?」
「はい、もちろんです! ……ありがとう、ございます……!!」
イザヤールが、自分にとっての天使でいてくれる。自分を守り、深く愛してくれている。
ならば自分も、彼にとってただ一人の天使でありたい。彼の側で、ずっと彼を守り続けたい。
そう願いながら、彼の想いを噛みしめ――その証である天使像を、アンジュはぎゅっと握りしめた。

 

しかしその直後、アンジュは「あ!」と声を上げ、イザヤールに向かって慌てて頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい! 私、もらってばかりで、イザヤールさまに何もあげられてませんでした!」
「チョコレートをくれただろう」
顔を上げ、アンジュはぶんぶんと首を横に振る。
「それじゃ駄目なんですっ! 私が、イザヤールさまだけに贈るものじゃないと……そうだ!」
ぱあっと瞳を輝かせ、天使像をコートのポケットにしまうと、アンジュはたたっと駆け出して少しだけイザヤールと距離をとった。ツリーの下に佇むイザヤールと、アンジュが向かい合う形になる。
そしてふわりと、微笑みを浮かべた。
「形のないものですけど……イザヤールさま、私からのクリスマスプレゼントです。受け取って下さい!」

目を閉じて、胸の前で手を重ねて。
冷たい空気を、すうっと吸い込んで。
その唇から紡ぎだしたのは――メリークリスマスの、メロディ。

 

歌は響き渡る。
星の降る夜空へ。
やがて、その声に応えるかのように――雪が降り出した。

 

 

 

 

















 

「サティ、まだ外に出てるのか? そろそろ中に入らないと風邪を引くぞ」
「うん……でも、あとちょっとだけ雪を見ていたいの。……ねえ、メル」
「ん?」
「……不思議よね。雪は、今も昔も変わらず降るのに……昔見た雪と、今見てる雪は、全然違って見える」
「……」
「なーんて、私らしくなかったかもね。って……どうしたの、メル? コートなんて着ちゃって」
「気が変わった」
「え?」
「お前が戻るまで、俺も付き合う」
「……もう。明日熱出しても、知らないわよ?」

 

「なーに一人窓辺で黄昏れてんのヨ」
「……ああ、お前か」
「他にすることないわけ? クリスマスの夜に一人きりだなんて、あんたも相当ヒマなのね」
「お前だってそうだろ」
「アタシはいーの。どうせアタシの姿が見えるの、アンタ達しかいないんだし」
「……ほら、このマフラー、身体に巻いとけ。いくらお前が人間じゃないとはいえ、そんな格好じゃ冷えるだろ」
「……何よ、アンタにしちゃ気が利くじゃない」
「一言余計なんだよ、お前は」

 

 


「あの、イザヤールさま。……一つ、わがままを言ってもいいですか?」
「なんだ?」
「……もう少し、一緒にいさせて下さい。……まだ、帰りたくない」
「ああ。私も今、そう思っていたところだ」
「いいんですか?」
「当然だ」
「寒いですよ? ……風邪、ひいちゃうかもしれませんし」
「……こうしていればいい」
「……はい」

 

 

 


しんしんと降る雪の中、紡がれていくひとつの想い。
彼らを優しく包み込むように、星の光は降り注ぐ。

 

聖なる夜に、祝福を。










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実はタイトルは話の内容とは全然関係なく、執筆時にずっと聴いていた曲のタイトルから取っています(汗)







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