[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
久しぶりのSS更新でございます(汗)
まず何よりも先に、これを書いておかなければならないかな、と思いまして。
--------------終わりを告げる夜 エピローグ
「――あの、イザヤールさま。わたし――」
「待て、アンジュ」
駆け寄りながらアンジュが言いかけた言葉を、イザヤールは片手で制した。予想もしていなかった一言に、アンジュは思わずその場に立ち止まる。
「……私から、言わせてくれないか」
聞き耳を立てていた事を咎められるとでも思っているのか、アンジュは口を閉ざしたまま、俯いてしまった。イザヤールはそんな彼女の様子を見て、ふっと笑みを浮かべる。
「そんな顔をするな。お前を咎めるつもりはない」
話を聞かれていたのに気づいた時、これではきまりが悪すぎる、と思いはしたが――いつかは、伝えなければならなかったことだ。
その言葉を受けて、アンジュは顔を上げた。少し安心したようではあるが、その瞳は、期待と不安をたたえてイザヤールを見つめている。
アンジュの視線を真っ直ぐに受け止めて、イザヤールは口を開いた。
「……謝らなければならないのは、私の方だ」
「謝るって、何を……?」
「誰よりも優しいお前の心に、傷を負わせたことを」
アンジュがはっと息を呑んだ。イザヤールが何を言わんとしているのか、彼女も理解したのだろう。
「……私は、一人で走りすぎた。師を救おうとするあまり、お前が傷つくとわかっていながら茨の道に進み……一度は、命まで落とした」
「覚えて、いたんですか……?」
震える声で、アンジュが問いかける。瞳にうっすらと涙を浮かべながら。
「ああ。……死ぬ間際のことを、今でもはっきりと覚えている。……お前を、たくさん泣かせてしまったことも」
「……っ!!」
アンジュの頬を、一筋の涙が伝った。
イザヤールはアンジュの側に歩み寄ると、その涙を、そっと指で拭う。
「……お前は優しいから、今までも……たくさん傷ついたんだろう。たくさん……涙を流したんだろう。私のために」
続く言葉を受けて、アンジュの目からは止めどなく涙があふれ出る。イザヤールが拭っても、追いつかないくらいに。
イザヤールは、アンジュの頬に触れていた手をそっと離すと、小さく頭を下げた。
「……本当に、すまなかった」
「……そ、そんな……っ」
目の前から、嗚咽混じりの声が聞こえた。
イザヤールが顔を上げると、アンジュは溢れる涙をぐしぐしと袖で拭い、泣きはらした目を向けてきた。
「イザヤールさまが謝ることなんて、ありませんっ!」
「……そんなことは、ないだろう」
イザヤールは首を振った。
「私がお前を傷つけたのは事実だ。今だって……こんなにお前を泣かせてしまっている」
もう一度涙を拭おうとイザヤールが手を伸ばす。すると、今度はアンジュが首を振った。
「違うんです、今は……私、嬉しくて」
「嬉、しい?」
思いも寄らない言葉にイザヤールが戸惑いを返すと、アンジュは小さく頷いた。
「不謹慎かもしれないって、わかってます。でも……イザヤールさまがそんな風に、私のことを気にかけていてくれたって思うと、私……嬉しさを、抑えられなくて」
アンジュはそう言うと、泣きながら微笑んだ。
その笑顔はまるで、雨上がりの雫をたたえた一輪の花のようで。
――あまりにも、美しくて。
気づいたときには、抱きしめていた。
「――イ、イザヤール、さま?」
「お前を、守らせてくれないか」
頭で考えるよりも早く、言葉が口から出ていた。
「これからはお前の側で、お前の笑顔を守りたい。償いのためでもなく、師としてでもなく、ただ一人の、イザヤールという男として」
それは、ずっと胸の奥にしまい込んでいた言葉。おそらく、彼女をこの手で斬った時から――痛みと共に、抱えてきた思い。
一生告げることはない、そんなことは許されない。今までは、自分に言い聞かせ続けていた。
だが、今は違う。
誰よりも愛しい存在が、この腕の中にいる――そう思っただけで、今までの葛藤も、躊躇いも、恐れも、どこかへ消え去ってしまっていた。
イザヤールは少しだけ腕の力を緩めると、アンジュの瞳を見つめた。驚きのためか、彼女は目を丸くして、口を半開きにしている。
その様子でさえも愛しく思えて、イザヤールは思わず微笑みを浮かべる。
次の言葉は、自然にこぼれ出た。
「アンジュ。……私は、お前が好きだ」
アンジュはしばらくそのまま固まっていたが、やがて、みるみるうちに頬を赤く染めていった。
「い、今、好きだって、言いました、よね?」
震える唇から、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「ああ」
「師匠、として、では、なく、て?」
「ああ」
「……ほんとう、に?」
「ああ」
「……イザヤール、さまっ……!!」
ぼすん、と音を立てて、アンジュはイザヤールにしがみついた。イザヤールが腕に力を込めると、その胸元から、くぐもった声が聞こえた。
「……ありがとう、ございます……っ!!」
こらえきれずに、また泣いてしまったのだろう。アンジュの声は、再び涙声になっていた。
「……私も、あなたが好きです、イザヤールさま」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥から、じわり、とぬくもりが広がった。自分の心が全て、あたたかい気持ちで満ちていくのを感じる。
「……顔を上げてくれ、アンジュ」
言われてもう一度、イザヤールを見上げたアンジュの頬に、手のひらを寄せて。
「もう一度、言ってくれないか。……今度は、私の顔を見て」
アンジュは一瞬、恥ずかしそうに唇を噛んだが、すぐに満面の笑みを浮かべて、頷いた。
「はい、イザヤールさま――」
紡がれる言葉。交わされた誓い。
そして重なる、二つの影。
終わりと始まりの時を、夜空の星々は優しく照らし続けていた。
------------------------------------------
ようやくまともなイザ主が書けたーっ!!(汗)
……多分うちの師匠は、「~して(させて)くれないか」というのが口癖なんだと思います。(笑)