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実はこれよりも先にイザ主結婚式ネタを書いていたのですが、それよりも先にこっちを上げた方がいいだろう、と思って予定変更。
それほど長くもないんですが、今回は前後編になりました。それについてはあとがきにて。
師匠が復活したその日の夜のお話です。
--------------終わりを告げる夜(前編)
泣いている彼女が一人で立ち上がれるようになるまで、ずっと守っていこう――そう誓ったときには、こんな日が来るとは思いもしなかった。
本当に、この世界には驚かされてばかりだ。
――まさか、一度目の前で死んだあの男――イザヤールに、再び会うことができるとは。
「……それにしても」
「ん?」
クロードは首を傾げた。無口なメルが口火を切ることは、ほとんどない。
「お前が誰よりも冷静だったのは、意外だったな」
「あ、それ私も思った!」
「そうか? 俺はこれでもまだ、落ち着かない気持ちなんだけどな」
メルとサティに苦笑いを返し、クロードは飲みかけのグラスをあおった。
「……俺たちの中で、クロードだけが純粋な人間だから……なのか?」
「あー、それもあるかも……私たちも、元々は天使だったからね」
と、言い終えた直後にサティはあれ、と何かに気が付いたように口にした。そのまま腕を組んで、うーん、と何事か考えている。
「どうした?」
メルの呼びかけに、サティは顔を上げた。
「いや、もしかしたら人間が云々じゃなくて……単に気持ちの持ちようなのかなって、思って。サンディじゃないけどさ……最近クロード、何か『悟った』みたいな顔してること、多いから」
「はは、『悟った』か……そうかもしれないな」
確かにこの頃、サンディからそう言われることは多かった。自分で考えてみても、今はかなり気持ちが穏やかになってきている気がする。旅を始めたばかりで、ただがむしゃらに戦っていた頃とは、大違いだ。
そして――アンジュに対して向ける想いも、少しずつではあるが、形を変えてきたように思う。
「今頃、アンジュとイザヤール様……どうしてるのかしらね」
階段を見上げて、サティが溜息をついた。つられてクロードとメルも、その視線を追う。
「……俺がいうのもなんだが」
「どしたの、メル?」
「二人きりにするのはいいとして……宿の一室に二人にさせてもよかったのか?」
「それは心配ないだろ」
クロードの言葉に、思わずサティとメルが視線を戻した。
「多分アンジュはもう寝てる。昼間あれだけ泣いてたんだから、疲れもするだろ」
「……言われてみれば、そうかも」
答えながらも、サティは目を丸くしている。クロードがこんなこと言うなんて思わなかった、とでも言いたげだ。
クロードはその様子にクスリと笑うと、窓越しの月を見て呟いた。
「……もうすぐ、真夜中か」
まだ心のどこかに驚きと混乱が残ってはいるが、それでも一日は終わる。
一時は泣きじゃくるアンジュを宥めるのに必死だったが、なんとか彼女を落ち着かせ、改めて自己紹介をしてセントシュタインに移動した。
リッカの宿屋で夕食を共にした後は、アンジュとイザヤールには早々に部屋に戻ってもらった。折角の再会に、これ以上割り込むわけにはいかないだろうという、仲間内での暗黙の了解だった。
一応、いつも通り部屋は別々にとってはいるが、十中八九どちらかの部屋で語り合っていたことだろう。
そして、残された仲間達は――そのまま宿のテーブルで、或いは食べ、或いは飲みながら夜を過ごしていた。
「……さて、俺もそろそろ、最後の仕事に取りかかるとするか」
「え?」
困惑しているサティをよそに、クロードはおもむろに立ち上がった。
「サティ、二人の部屋は二階の一番奥だったよな?」
「う、うん、そうだけど……」
戸惑いながらもサティが答えると、クロードはそのまま階段へ向かって歩き出し、すたすたと二階へ上がっていった。
「ちょ、ちょっと、何をする気なの?」
サティが慌てて階段まで駆け寄ってくる。
彼女はいったい自分が何をするつもりだと思っているのだろう、と思うと同時に、自分が彼女たちからどんな風に見られているのか、ほんの少しだけ不安になった。
しかし、無理もないかもしれない。仮にも自分はアンジュに対して思いを寄せていて、そのアンジュが恋心を抱いている相手が再び目の前に現れる、という事態が起こっているのだから。
「心配するほどのことじゃない。ちょっと呼んでくるだけだ」
階段の途中で振り返り、言葉を返して再び歩き出す。そう、今は呼んでくるだけ。きっと自分の最後の仕事は、宿の中ではできないだろうから。
そこまで考えて、「心配するほどのことじゃない」とサティには言ったが、実際そうでもないかもしれないな――ということに気づき、思わず笑ってしまった。
「……あれ?」
客室の扉が並ぶ廊下の奥に人影をとらえ、クロードは歩みを早めた。近づいていくと、丁度イザヤールが部屋から出てきたところだということがわかった。
扉を閉めようとしたその時、気配で気が付いたのかイザヤールは後ろを振り返った。目が合うと、体ごとクロードに向き直る。
「……お前か。確か……」
「クロード。いい加減覚えてくれよ、イザヤールさん」
面と向かって話すのは今日が初めてだからか、イザヤールの言葉はどこか歯切れが悪い。
まあそれも仕方のないことか、と思うと同時に、そう思えるほど自分が心に余裕を持っているのを、クロードは感じていた。
「アンジュなら既に眠っている。急ぎの用でないなら、明日にした方がいい」
クロードは首を振った。
「いや、俺はアンジュに会いに来たんじゃない」
そう答えて、一瞬だけ目を閉じる。
そして再び開いたとき、その瞳の中に笑みはなかった。
(……ここからが、俺の最後の仕事だ)
その瞳の中にあるのは、旅の中でずっと重ねてきた思い。
そして、かつて灯され、一度は消えかけた決意の光。
クロードはまっすぐにイザヤールを見据えると、出来る限り声を低くして告げた。
「あんたに、話がある」
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主人公不在ですみません。
ですが、このイベントをどうしても書いておきたかった。
前後編にした理由っていうのは、私自身もこの後の展開をどうするかまだ決めかねているからです(汗)。
といっても、迷っていることはただ一つ。
クロードに師匠を殴らせるべきか否か。(笑)
もしこの件についてご意見があれば、拍手からでもメルフォからでもご自由にどうぞ。大歓迎です。
しかし今回これを書いてみて(結婚式ネタの方でも)思ったんだが、
私にとってのDQ9の主人公って、アンジュじゃなくてクロードなんじゃないだろうか。