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サルベージSSその3。
タカ不二前提、タカさん←裕太。どマイナーですね。同志が少なすぎて泣けてきます。
結構暗い上に、ちょっとタカさんがひどい人になってるのでご注意を。
タカ不二前提、タカさん←裕太。どマイナーですね。同志が少なすぎて泣けてきます。
結構暗い上に、ちょっとタカさんがひどい人になってるのでご注意を。
--------------青い糸
がばりと身を起こす。すっかり熱のこもった、ベッドの上だった。
当たりを見渡すと、カーテンの隙間から微かに漏れる白い光。窓越しに聞こえるのは、木々の葉擦れと鳥の鳴き声。
何も変わらない。いつもと同じ、朝が訪れていた。
――ああ、そうか。
いつの間にか、眠ってしまっていたのか。
そう思い至ると同時に、今まで『眠っていた』という意識が全くなかったということに気が付いた。
いつ眠りに落ちたのか全く見当も付かず、目覚めた今も、毎朝感じているようなまどろみの名残や気怠さは全くない。一瞬の覚醒だった。もしかしたら、眠っていたというよりも意識を失っていた状態に近かったのかもしれない。
それでも正直、驚いた。自分が眠りにつき、目覚めたことに対して驚く、というのも変な話だが、昨夜あそこまで冴え渡ってしまった意識を眠りに導くことなど、とてもできるとは思えなかったのだ。きっと、一睡もできずに窓から日の出を見ることになるだろうと覚悟していたほどだった。
――一時的とはいえ、なぜ、眠れなくなってしまったのか。
ここまで思い出すと当然、思考はそこに行き着く。
瞳を閉じると、自分の記憶はその理由となる光景をありありと思い描くことができた。朝になり、太陽が昇り、この地上の全てが光に包まれても、尚。
脳裏に映ったそれを認識した瞬間、すっかり熱の引いた頬が再び熱くなるのを感じた。慌てて首を振って、浮かび上がるものをかき消した。
昨夜、暗闇の中に浮かび上がるように見えたそれは、微かに耳に入ってきた音と共に一瞬にして脳の奥に焼き付き、身体の熱をどうしようもなく高めていった。逃げるようにベッドに潜り込み、眠りの中で忘れようと目を閉じても、その光景は瞼の裏から決して離れてはくれなかった。
ひたすら加速し続ける鼓動が耳につきまとい、吐き出す息は熱を帯び続ける。この身体が熱の塊になってしまったかのような感覚さえ覚えた。
そう。全ては、自分がそれを目にしてしまったからに他ならない。
そして、自分の記憶が本当に正しければ……おそらく。
ともかく、部屋を出なければ始まらない。
遅かれ早かれ、その時は来るのだ。深呼吸を一つして、パジャマ代わりのTシャツを脱ぎ捨てると、タンスを開けて最初に目に付いた服に袖を通す。もう、覚悟を決めるしかない。
けれどその時、自分はどんな顔をしていればいいのだろう。顔を合わせたとき、まず何を言えばいいのだろう――答えの出ない自問に、思わず唇を噛んだ。
意を決して廊下に出て、階段へと踏み出した。一段降りる度に鼓動が高鳴り、一階にたどり着いた時には自分の足音すら聞こえなくなっていた。
ドアの前で、もう一度深呼吸をする。顔の火照りが少しでも鎮まっていることを祈りながら、ノブに手を掛けた。
――落ち着け。動揺するな。偽物でもいい――笑え!!
ゆっくりと、ドアを開く。汗が一滴、こめかみを流れ落ちた。
「あ、おはよう。裕太」
ドアを開けると目の前にある、リビングのソファ。
やはりそこに、その優しい人はいた。
「おはようございます。……河村、さん」
見渡すと、リビングの中にいたのは河村一人だった。食事用のテーブルの上には、皿だけが規則正しく並べられている。
「俺が一番早く起きたみたいだったからさ。簡単に朝食の用意しておいたんだけど、駄目だったかな?」
自分の視線の先に気づいた河村は、そう言って申し訳なさそうに笑ってみせた。皿だけがテーブルの上にあったのは、自分たちが起きてきたときに盛りつけるための準備だったというわけだ。
「いえ、そんなことありませんよ。ありがとうございます」
河村に礼を述べると、もう一度テーブルの上に視線を戻した。
並べられた皿は三人分。ここにいるのは二人。
――ここにいないのが、一人。
「……兄貴は?」
河村には視線を向けずに、問うてみた。
「まだ部屋で寝てるよ」
起こしても起きそうになかったから寝かせておいたよ、と柔らかな声が答える。きっと今、河村はひどく優しい目をしているのだろう。兄のことを考えているときの彼は、いつもそうだから。
なぜだろう。
今だけはそれを見ることができなかった。彼の笑顔が、自分は大好きだったはずなのに。
いや――自問するまでもない。答えはわかっているのだ。
「裕太」
その時、心を見透かされたかのようなタイミングで名を呼ばれ、思わず身体が硬直した。
いや、それだけが理由ではない。
声のトーンが、違う。明らかに重い。今、自分の背中を見ている河村は、絶対に笑顔を浮かべてはいない。
たった今、確信できた。
ような、ではない。自分の心は絶対に、彼に見透かされている。
兄の居場所を尋ね、それに答える河村を見ていることができなかった自分。そこで気づかない方がおかしい。もともと、平静を装っていられた自信は全くないのだ。
小さく息を吸い込み、吐き出す。
覚悟を決めるしかない。そう思ってはいたが、彼がどんな言葉を口にするのかを考えると、恐くてたまらなくなる。
「……なんですか?」
絞り出すように、なんとか言葉を紡いだものの、振り返ることはできなかった。
少しの沈黙の後、河村が息を吸う音がかすかに聞こえ、
その瞬間は、訪れた。
「……ごめん、ね」
もしも言葉が凶器になるなら、自分は間違いなくその一言に撃ち抜かれていた。
自分が見たものが現実であるという事実と、ああやっぱり、という思いと、これで終わりだ、という現実を一気に突きつけられ、その全てが胸の中でごちゃ混ぜになる。
いっそ、潔く終わりを認めて笑ってしまいたかったが、自分の心はそれを許そうとしなかった。行き場のない、ぐちゃぐちゃした感情に、息が詰まりそうになる。でも。
――やっぱり、気づいていたんですか?
それだけ、確かめたかった。言おうとして、彼の方に向き直った。だがその言葉は、喉から出る寸前に飲み込まれた。
駄目だ。言えない。言ってはならない。
だって、もし。
彼に聞き返されたら。
――『何に?』
そう問われたら、自分は何と答えればいい?
真夜中に自分が、ドアの隙間を覗いてしまったことに?
自分が彼に、『義兄』以上の感情を抱いていたことに?
もし兄の居たところに自分が収まっていたら――と、一瞬でも思い描いてしまったことに?
言えない。言えるわけがない。
「……何、言ってるんですか?」
声の震えを、必死に押し殺して。
「……河村さんが謝ることなんて、一つも……ありませんよ」
目を伏せてそう答えるのが、精一杯だった。
無い物ねだりだということは、最初からわかっていた。
初めて河村と言葉を交わしたとき、彼は既に『兄の恋人』だった。
兄の恋人になったのが同性の人間であるということで、最初は眉をひそめたものの、彼と接していくうち、彼の言葉を聞くうち、自分は河村の揺るぎない強さ、そして優しさを知ることになった。彼を知ったとき、兄が彼に惹かれた理由が、なんとなくわかるようになっていた。
「河村さんが俺の本当の兄貴だったらよかったのに」――いつか自分がそう零したのを彼が覚えているのかどうかはわからないが、河村は、自分に本当の弟のように接してくれていた。彼は兄のように自分を子ども扱いすることはない。それでも、常に優しく自分を気遣い、大切にしてくれる。そんな河村という存在を、自分も次第に慕うようになった。
それだけならよかった。
彼が兄に向けるあの笑顔を、自分には向けてくれないのかと思うようになったのは、いつからだろう。名前を呼ばれるたびに、頬が熱くなるのを感じるようになったのは、いつからだろう。
無い物ねだりだということは、最初からわかっていた。
叶うことのない思い、咲く前に枯れてしまう花だと。
わかっていたが、気づいたときにはもう、後戻りができないところに立っていた。
そして今、自分はその報いを受けた。
……それだけのことだ。
不意に、視界に影が差した。
視線だけで上を見ると、河村が目の前に立っていた。何を言われるのだろう、と自分が思うよりも先に、河村はおもむろに右手を伸ばす。そして、くしゃりと自分の頭を撫でてきた。
正直、信じられなかった。
河村が自分に触れたのはきっと、初めてのことだったから。
だが自分にはここまでしかできないと暗に言われているようで、自分の限界がここまでだと思い知らされているようで、思わず視界がにじんだ。
けれど、それでもあたたかく心地よい彼の手のひらの感触に、このまま時が止まってしまえばいいと、強く願った。
もう、他にできることはなかった。
自分が感じられる限りのあたたかさに身をゆだねて、ただ、ぎゅっと目を閉じた。
ああ。
このあたたかい手は、優しい指は、昨夜。
どんな風に、兄に触れたのだろう。
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おそらくタカさんは、全部わかってます。……罪な人。
不二が一切出てきませんが一応タカ不二です。というか、タカ不二前提のタカ←裕かな。
本編でほとんど接点ありませんが、この二人も結構好きだったりします。でも、どうあってもタカさんと裕太が接点を持つとしたら不二だし、タカ不二が前提になっちゃうから裕太は幸せにしてあげることができない。……なんか、申し訳ないです。
あ、作中では語っていませんでしたが、一応不二の家にタカさんが泊まりに来る予定だった日に、休みの予定が変わった裕太が偶然帰ってきた、という設定になってます。淑子ママと由美子姉さんは二人で旅行中。
ちなみにタイトルは、知る人ぞ知る恋/路/ロ/マ/ネ/ス/ク/の歌詞からです。
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